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陽炎のように 〜The end of Pygmalion

かげろふ雑文祭参加の雑文

宴のあと

『かげろふ雑文祭』
1.必ず文中に『詩』を入れる事。
 一行詩不可。最低で四行詩以上を文のどこかに挿入すること。
 一行の定義は皆様の良識に任せます。
 短歌、俳句の形態を整えている場合は、詩として認め、四行以下でも可。
 詩は自作、他作を問いません。但し他作の引用は著作権に注意して下さい。
 著作権は、作者死後50年間まで有効です。
 他作の場合は文末等で、必ず出典を明らかにして下さい。
 詩自体は完結していなくても、ある詩からの一部抜粋(四行以上)でも構いません。
2.文の内容はその詩に多少なりとも絡める事。
3.文中或いは詩中に『かげろう(”かげろふ”でも可)』の言葉を入れる事
4.書き出しは必ず、『○○○○年』で始める事。(例:1965年の夏…)
 この際に元号は不可。西暦を使用すること。年数は西暦であれば全く問いません。
 尚、西暦以外の特例として神武歴は可。

-- 陽炎のように --

 1990年晩秋、乾燥し始めた空気が夜の静寂(しじま)を無数の星で飾り付けていた。東京近郊のベットタウンとはいえこのあたりはまだ田圃がたくさん残っている。はるか前方には旧陸軍の研究所跡を利用する私立大学の校舎とそれらをいただく丘陵というにはやや高い山並みがくっきりと見えた。彼は煙草をくゆらせると一瞬自ら吐き出す煙が目にしみてクルマの窓を開けた。

  虫たちのうたげが終われば小川のせせらぎだけが響き
  遙か山並みの麓の国道を行き交うクルマのあかりは
  幾重にも織りなして山はまるで陽炎
  きらめく星達は今にも弾けだしそうに
  饒舌に星座の物語を語り出す
  風、飄々と吹き私の心を洗う
  満面に水をたたえる刈田は欠けた月をそのまま写し
  さきを急ぐ小川の月は水の乱れのままに乱れる

「ちっ、女と別れたからって詩人を気取ってる場合じゃねぇや。」
 彼は自嘲気味に自分に語りかけるとクルマを発進させた。

 彼にとって女が去っていくと言うことは慣れっこになっていた。大学も卒業だという頃、大恋愛の末の同級生の女を中年の実業家に地位と金で強引に略奪されて以来、何人もの女が新しい男をつくって彼の元から去っていった。その都度翻弄されつらくもあったが繰り返すたびに心に残る傷は小さくなっていく。大学生の時、彼女がどこに出かけているのか解らないときは夜の9時を過ぎると胸が引き裂かれる思いだった。夜中になっても戻らないときはクルマを駆って彼女の行きそうな所を走り回った。不安と焦燥が心に大きく穴をあけた。そういう晩は彼女の躯を貪ることで埋めた。自分の若さと独善さと強引さが一度躯を重ねた女達を遠ざけて行くことにまだ気がつかなっかった。それだけ純粋だったのだと今は思う。しかし自分に原因があるとは言え、女達に裏切られながら彼は真摯に一人の女だけを見つめ続けることの馬鹿々々しさを知った。

 奈津子から別れを切り出された時もちょっとだけ荒れたものの飲んでいたワインのボトルを壁に投げつけるだけで済んだ。シャトー・ラフィット・ロートシルトの85年、ハーレー彗星のタペストリーが入ったまだ数年前の若いワインだ。妙に苦かった。これが10年前の自分だったら彼女を殴っていただろう。腹が立つというより彼女の行動を思い浮かべて何となく合点がいった。あの青年かぁ~?どうせ躯から始まった女だしな。部屋を飛び出した彼女を追おうともせずに煙草をくゆらせながら苦笑いした。
 しかしあれから10日、こうして又彼女のマンションのベットの中にいる。彼女に誘われて来てしまっている。奈津子と初めて寝てから4年、その歳月がどこかまだ惹かれる思いを心の襞に染みつかせているのかも知れない。

「しよう。」
といって奈津子が自分の脇に滑り込んできても躯は反応しない。

「しないよ。」
と上の空で応える。

普段の彼女だったらいきなり彼のパンツをさげ、まだ縮こまっているかれを愛おしむ様に口に含んだ事だろう。だが今日は別れ話が彼女にブレーキをかけているに違いなかった。

「ねぇ~。しようよ。」

と甘えたこえでささやき背中を向けた彼の胸や腹を後ろから撫で廻したが、無視し続ける彼に諦めたように

「じゃあ握って寝てもいい?お願い握って眠らせて」

といって右手を下着の中に滑り込ませた。しかし彼女はいきなり握りはしなかった。彼が4年に渡って教えたように、するするとその掌は太股の付け根を撫で廻し、後ろから前に連なる袋をそっとそっと撫で廻した。彼は彼女の掌の暖かさを心地よく受け入れながらやがてかれ自身に血液が注入されて行くのを感じた。まもなく快感が広がりだした頃彼女の掌はその先端へと移動してきた。かれ自身は渋々と躍動を開始した。しかし彼はその快感に身をゆだね彼女を抱こうとは思わなかった。4年前まだ18だった彼女が初めて自分に触れたときはまだ指の力が強くて痛かったことを思い出す。皮がちぎられそうだった。フェラチオだけが上手い変な女だった。その女が今いっちょ前にこうしてエロティックに男の性器を愛撫する。きっとあの青年にもこうしてやっているのだろうなと思うと少しだけもったいない気がした。

 彼の自身の躍動と共に奈津子の息づかいも荒くなってきた。やがて毛布は取り払われ奈津子はかれを口に含んだ。かれは脈を打った。
「あなた、ここが弱いのよね。ここ責めちゃえばしてくれるわよね。」

といいながら頭を下げ、奈津子の舌は彼の太股の付け根を、うしろからまえに連なる袋をねっとりと涎の糸を引きながら這いまわった。彼は押し寄せる快感に耐えながらも思う。このあと彼女は躯を入れ替え自分の性器を鼻先に突き出すだろう。上気した奈津子のそれは盛り上がり裂け目には愛液が溢れているはずだ。それをねっとり舐めてやればやがて女性上位で挿入する。自分で腰を使いながらクリトリスの愛撫を要求する。そして最後は女性上位のまま抱きしめあってキスをして唾液を交換しながら互いに果てる。もう何年も続けているパターンじゃないか?彼女はこのパターンでないと上り詰めることが出来ないのか。それでオレを誘ったのか?別れ話を切りだしておいてなんて勝手なんだ。かれには自分を受け入れたまま乳房を揺すりながら彼の上で踊るようにからだをくねらす奈津子がまるでかげろふの様に見えてしらけた。彼は反抗することに決めた。

 彼女の舌は躍動する肉樹を這いまわっている。いつもはここで往かないように耐えてきた。羊が一匹、羊が二匹と高原の牧場でシープドックに追われながら生け垣を順番に飛び越えていく羊を想像して耐えてきた。そうまるで半茶で読んだように。だけど今日は違う思いが巡ったのでよし耐えないぞと思い快感に身を委ね、彼は自ら腰を使った。怒濤のような快感のうねりが押し寄せ瞬く間に肉樹が跳ね上がり奈津子の口の中に大量に放逸した。

「なんでいっちゃうのよ、いつもはあわせてくれるじゃない!」
口から彼の液体を涎のように垂らしながら奈津子が言った。突然の予定外の現象に奈津子が怒っているのが手に取るように解る。
「新しい男を作って別れ話を切り出したのはお前じゃないか!」彼は心の中でほくそ笑んだ。
彼は二人の唾液と愛液にまみれ濡れて光る躯を拭おうともせずそそくさと衣服をつけ奈津子のマンションを出ると路地の反対側の用水路の脇に止めてあるクルマに乗り込みキーをひねった。