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グランドステージ藤沢 倫理の制約すら排除したデザインとヒューザー

目の当たりにしてきました

 事情があって今話題のと言ってしまえば不謹慎なのかも知れないがグランドステージ藤沢を目の当たりにしてきました。事情などと言ってもたいそうなことではないんですが。たまたまお付き合いのある銀行系のビル管理会社のかたがたから近いから見てきて素人でもわかるようなポイントがあったら話して欲しいという依頼があったから。この会社は湘南地区で相当数のビル管理を手がける会社なんですが、ここの方が言うにはグランドステージ藤沢がまだ耐震偽装問題で話題になる前の工事中のころ、タイルが一面はがれてガバッと落下した事があったそうでそれ以来この会社では通勤にグランドステージ藤沢の前後の道路は使用せずに迂回するようにという通達が出されていたのだそうです。被害者の方の為にもこのマンションの酷さが出来ることなら素人には分からないレベルに隠されていて購入するときは微塵も気がつかなかった程度のものであって欲しいと祈りながら見に行って確かめることにしました。

 そんなわけで案内の方と一緒に行ってきました。藤沢駅北口からさいか屋の左側を抜けて銀座通りの大きな交差点を過ぎ、すこしいったところで右手に伸びる戦後の飲み屋街のような寂れた一角抜けていくと、そんな耐震偽装の建物より遙かにヤバそうなアーチをくぐり抜けたらすぐ右手に建つマンションが目的のグランドステージ藤沢です。すぐ手前で民賃のマンションが建設中でまだ外装仕上げがされていない足場に囲まれたこの新築中のマンションのほうが遙かにガッシリ安定した建物に見えるのは気のせいばかりではないようで、それはご一緒した案内の方もそう見えるそうだから。反対側にはクリオマンションがあるんですが失礼ながらさほど上質とは言えないクリオですらガッシリと安定感があります。素人でもそう見えるそうですから。それくらいなんか貧相な建物ですグランドステージ藤沢。こんなに名前負けした建物も珍しいくらい。まずデザインにまるでコンセプトがありません。四角く作って同じ形状で1階から10階まで上げてただタイルを貼りましたって感じ。耐震偽装はともかくただただ安く作ることだけを念頭にして作られた建物で、それはエアコンの冷媒がなんの規則性もなくただ外壁を這っていることにも見受けられます。仮設用のプレハブにタイルを貼って高くすればこういう建物が出来るでしょう。一階は駐車場とエントランスなのですがエントランスには引っ越しの為の青い養生が張り巡らされていて、解体する建物のエントランスを養生してどうするねん?て思いましたが、ひょっとすると引き渡しの時のまま放置されているのかも知れません。安めの賃貸マンションよりも気の利かないデザインのエントランスから駐車場に廻れば見事なくらいのフラット空間。普通このくらいの高さのマンションですと仕上げ材で隠しきれなかった梁型や柱型が不粋に迫ってくるものなんですが見事に真四角な立方体の構成する仕上材のなかにみんなおさまってしまっています。建物自体のスッキリはしているんだけど妙に薄弱に見える痩せた感じはこの薄っぺらな構成が原因なのかも知れません。「前のクリオや隣の民賃と比べてなんかこうしっくりこない、変だなぁと、実物を見ればとりあえず専門家に相談しますね、これは。すぐには買いませんねぇ、私は」がご一緒した案内の方の弁。

マンションは耐震だけではありません

 この建物、専門家から見ればツッコミどころ満載だと思います。柱も異常に細いです。タイルの剥離事件がよっぽどトラウマにでもなったのでしょうか?柱の細さを告白するように正直にタイルに目地が切ってあります(笑)。よくもまぁここまでコストを落とす作り方をしたもんだと思います。型枠には、ほとんどヤクモノは無いでしょう。第一キャンティ状のバルコニーなんて今時やらないでしょう、たいがい柱の内側、つまり構造体の中に収めてませんか?いま時の分譲マンション。こんなマンションを売っているデベがあったなんて知りませんでした。自分の勉強不足をちょっと恥ずかしくも思いましたがまぁいまは現役で建築やっているわけではないからいいのですが。以前 木走日記のコメント欄 で masashi さんと平米あたりの鉄筋量などの話をして「いくら規定量でもわたしの考える品質をみたさない仕事はわたしはしない」みたいな話をしましたがそのとき masashi さんは「耐震偽装は自分でも見抜けないかもしれない」あるいは「品質が低くても正当に表示することが重要」と仰っていました。しかしこのグランドステージ藤沢を見れば「耐震偽装」はともかく、買うべきマンションではないという結論はすぐにも出せると思います。今回は外観だけでしたが内覧などで居室内に立ち入って床や壁を叩いてみたり、PSを覗いてみればもっといろいろ明らかに見えてくることがあると思います。マンションは耐震性能だけ良ければいいんじゃないんです。縦樋の径と本数も少ないように思いました。災害になる雨量計算はクリアしているのかも知れませんが昨今の短時間での大雨はバカに出来ないですからね。災害量なんてすぐ降るしバルコニーのが旨くいかないとグレートの低いサッシュなどくぐり抜けて室内は水浸しになりますよ。そうなったら防水のかかっていない一般スラブなどすぐに水を通して階下まで被害が及びます。しかし災害になる雨量計算をクリアしていれば単なる災害で売り主にはなんの責任も及びません。

 もうひとつ気になった点。まぁもうどうせ解体しちゃうんだからどうでもいいのだけど参考までにお一つ。この建物、前の道路が市街化整備されることをまるで考慮していません。おそらく歩道が整備され縁石なりインターロッキングなりにされるとエントランスのレベルが中途半端に市道より低くなります。車椅子のスロープはどうすんでしょうか?新たに当然作るんですよね。雨の排水はどうすんでしょうか?当然新たに作るんですよね。いくら安く買ってもまたみんなでお金出すしかないですよね。それにすぐ隣に建設中の民賃、これが出来れば南側のバルコニーの採光は全滅ですね。お隣の計画だって一年以上前に分かっているわけですからヒューザーがそんなことを購入者に知らせずに惚けただけでしょうに。モラルのあるというか普通のデベなら当然設計変更してるでしょうに。東側にバルコニー作って間取りを時計方向に90度動かせば済むでしょう、こんな建築面積なんだから。売っちゃえばあとは知らねぇよという態度が見え見えですね。そうじゃなきゃ耐震強度不足の指摘を受けているのに引き渡したりはしないわなぁ。というわけでこの騒ぎ。これで皆さんご自分のマンションの耐震性能の再検討などがブームになっているようですがもう買っちゃったかたは仕方がないんですが、これからマンションを買う方はせめて内覧会の時に専門家を同行したほうがいいかもしれません。ヘタをすれば契約時にはモデルルームだけで現物は見られないでしょうから。専門家に出来上がった状態を診断して貰って、おかしいと思ったら、あらゆる材料を総動員して断固として引き渡しを拒むくらいの覚悟が入りそうです。

モラルをお金で取り戻すのはどうよ 結局人間は強制しなきゃダメな悲しい存在だね

 構造設計者など、内覧会に同行して収入を上げるというのもいいかもしれません。一日10万円くらいで引き受ければ構造設計業務に支障を来さずに両立出来るし、だいいち少しは構造設計者の地位も上がって今回の姉歯氏のようなケースを原理的に防止できるシステムが作れるかも知れません。なにしろ今現在は意匠設計者に比べて構造設計者の地位は低すぎます。お金を稼ぐことが出来る建築学会のお偉方がいくらモラルの向上だの犯罪の防止だの言ったって貧困にモラルもクソもありません。結局人間はお金やら強制がなきゃダメな悲しい存在なんですね。とりあえずの手っ取り早く再発防止のシステムは必要だと思います。それにしても大変恥ずかしい話なんですがわたくしはこんなコンセプトもポリシーもないようなマンションを見たのは始めてです。いくらコストダウンがコンセプトであってもモラルは必ずやデザインに現れてくるでしょうに。なんていうかヒューザーの企業倫理が見えてくるデザインですね。なにも無宗教の現代人の倫理観の欠如を論じようというのでは有りません。企業というのは成熟すればブランドの永続への願いという原理も作用するでしょうがそれなりに社会への責任感も持つようになるのですが、それはトップによるんですね。トップの自覚から作用する社内への倫理的要請というものでしょうか?ヒューザーという企業は商品を通してまったくそれを感じることが出来ないのはわたくしの感覚が古いからでしょうか?このようなモラルの一遍すら感じられないデザインのマンションをわたくしはかつて見たことがないように思います。