スタバとアップルの提携が示唆する音楽の未来

お仕着せではなく好きな音楽だけを…もっと自由に

BlieAN : M6 + ELMARIT 28mm F2.8 f/5.6 1/15sec. Kodak T-MAX3200

渋谷のライブハウス KABUTO 「年忘れ中村家忘年会」でのBlieAN 。彼らとは打ち上げのイタリアンレストランで哲学以前の精神解放手段としての音楽の話をした。言語の原初形態は名称指示の単語ではなくメロディーとリズムを文節化、さらに単語化することにあったという仮説の話。しかしそうでなければ人類は哲学以前にどうやって恐怖や不安と戦ったのかが説明できない。

スタバ本社のあるシアトル近辺のスタバの大半はすでに「iTune Store化」が済んでいるが、このおもてなしの高さは絶品である。スタバでラテを飲んでいて、「ちょっと気になる曲」がかかることはしばしばあること。そんな時には、iPhoneをポケットから取り出してiPod->iTunes Storeと２クリックで今流れている曲の題名とアーティストの情報が得られる。そのアーティストのアルバムについて色々と調べることもできるし、視聴もできれば、購入もできる。Life is beautiful:スタバとアップルの提携が見せてくれるメディアビジネスの将来より

　Satoshi Nakajima さんのテキストを引用したのは彼と同じようにメディアビジネスの将来に焦点を当てようとしているわけではない。メディアビジネスに翻弄されてきた音楽がアップルとスタバの提携によって人間にとって本来持つ機能を取り戻すことが出来るんじゃないかと思ったからである。

　音楽は太古の昔からコミュニケーションの一つの方法として機能し、時にはダンスとともに人間が創る最上のものとして神に捧げられ、時には疲労や恐怖、不安を取り除き精神の充足をもたらすものとして人々に共有されてきた。神話に登場する神々が歌で愛を語り合ったのも、それが最上でもっとも美しい愛の語り合いだと人間が考えたからに他ならない。だれもが音楽を聴いて心を揺さぶられる能力を生まれながらに持っている。歌い演奏する能力については太古の昔はコミュニティー内で教育され成人までには一定の能力をつけたであろうことは伝統的なフェスタ・祭りの形態を見れば容易に推測することが出来る。

　その音楽を特殊な能力として教育体系の片隅に追いやってしまったのは西洋近代教育である。そこに音楽が産業として成り立っていく要因が見え隠れする。才能あるミュージシャンを世界的に紹介し巨額な富をもたらしたのは音楽産業の功績だが、二ひきめのドジョウを再生産しなければ産業としては成り立たない。実は聴くに足らない音楽が情報産業との連携で消費者を欺きつつ市場にドロップダウンされたのだ。すなわちアイドルの大量生産である。

　浜崎あゆみのCDが売れないって？バカ言っちゃいけない。本来需要のないものを嘘偽りでムードを作り出し強引に売ってきたのが音楽産業である。カラオケブーム時代はまだ良かった。音楽好きは浜崎あゆみが良いから買うのではなくカラオケで歌う教本としてCDを買ったのだ。

　ところがここ最近はようやく若い音楽好きを中心にその馬鹿馬鹿しさに気がついてきた。ライブハウスレベルでの地道な音楽活動が多くの若手（年齢的な若手ばかりではないかもしれないが）のミュージシャンによって各地で行われている。その中にはいわゆる作られたアイドルよりも遙かに心を揺さぶる人たちがいるのだ。そういうライブハウスに集まる人々はもはやドロップダウン型の音楽CDなど買わない。そういう人々が増えれば増えるほど、その分CDは売れなくなるのだ。

　そういう中に iTunes Store でデビューした中山うりもいる。彼女ははじめ iTunes Store の今週の音楽に取り上げられ一週間無料ダウンロードが出来た。それからミラクル旋風が始まったわけだけれどもそれだって iTunes Store に接続してクリックという行動がなければ知られることはない。しかしこのケースがスタバという実店舗でのＢＧＭとして流れたらもっと素敵だったに違いない。

　スタバとアップルの提携は多くの若手ミュージシャンにこの機会をもたらす。もっともミュージシャン自身も試されることにはなるが。つまりこの提携がもたらすのはライブハウスに行かなかったとしても身近で自分の好みの音楽と出会う機会を消費者にも格段に増やしてくれるということだ。各地のライブハウスレベルで活動を続けるミュージシャンの音楽がスタバで流れ、それが気に入れば３クリックで君の iPod に入れてしまえる時代がもうそこまで来ているのだ。