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Wilhelm Backhaus Live Concerts: Carnegie Hall, 1954

銀盤の獅子王 バックハウスカーネギーホールライブ

Twilight Bus Stop

Twilight Bus Stop : M6 + SUMMICRON 35mm F2.0 f/2.0 1/500sec. ILFORD XP2 Super400

  • 絞り解放のズミクロン6枚玉。古いレコードのノイズのようなフレアとゴーストに妙に安心感を覚える。見えすぎの最新レンズとデジタルよりエロティックなのか。

 昨日は日中少しは暖かいかと思ったら今日はまた激寒。相変わらず自転車で出かける気力はおきない。それに夜は叔父のお通夜だ。で今日もお題はクラシック音楽。昨日バックハウスカーネギーホールライブを ITMS で見つけて買ったと書いた。なんとね、カテゴリがクラシックではなくワールドになっていたのよ。1954年のカーネギホールライブと言えば銀盤の獅子王の名を欲しいままにしたバックハウスの全盛期の録音。CDもリリースはされたものの既に廃盤でとはいえ12000円程度のプレミアがついている。それを ITMS では 3000 円で買えるのだからこの演奏をアーカイブに加えたアップルのミュージックスタッフには敬意を表したい。

Vineyard

Vineyard : M6 + smc-PENTAX FA20mm F2.8 1/250sec f/11.0 ILFORD XP2 Super400

  • ここからの2枚はペンタクッスの広角の名作 FA 20mm F2.8 で撮ったもの。ライカのレンジファインダーとレンズの距離設定は連動しないので絞り込んで無限遠で撮影。解像力とコントラストが豊かなのはさすがに現代の技術。

 このカーネギーホールの演奏を聴くのは僕は始めてである。そもそも若い頃のアプローチの出発点が音楽というよりオーディオだったから当時も常に話題が提供されていた、モノラルの名盤にはあまり食指が動かなかったというのもあるし、ワルターのモノラルなど人に勧められて聴いてみたモノの魅力が理解できなかったというのが正しいのかも知れない。当時最初に聴くモノラルがこのバックハウスだったら今の音楽の好みはどれほど変わっていただろうか。第一印象は極めて衝撃的だ。一番の興味はベートーヴェンの 32番 ハ短調 OP111 だが、それは強烈なインパクトのある打鍵から始まって自由自在にコントロールされる即興的なテンポコントロールと正確無比な指使いを聴かせる。昨日書いたラン・ランの流麗な速弾きスタイルなど寄せ付けないほどの芯のあるしっかりした重厚な中低音。それが細心のステレオ録音ではなく、僕の生まれるより前の半世紀を経たモノラル録音で圧倒的なスケールを持って展開されるのだ。

Vineyard house

Vineyard house : M6 + smc-PENTAX FA20mm F2.8 1/250sec f/11.0 ILFORD XP2 Super400

 晩年のステレオ録音にはない打鍵のインパクトの強さ、そして一楽章から二楽章への間断のない連続。比類泣き正確さでトレースされ、加速されていくメロディー。一足飛びに時間から空間へ打って出るがごとき表現はドイツ的場所の哲学・観念論の音楽的な極みとも言えるのではないか。アダージョもアンダンテも形式的な仮の名称で本質は一足飛びの神の世界との同化。神が来たりて我が語る世界の音楽的具現とでも言いうべきか。音楽評論の側にいる人の言葉を借りれば『人間的感傷を吹き飛ばして、一気に天の高みに飛翔する事』ということになる。もう卒倒しそうになった。この演奏を知らなかった過去の自分が不幸に思えて悲しくなるほど。確かにリラックスしたような状態で聴ける演奏ではないが人の言う『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ演奏の規範と』とは多くを聞き比べた訳ではない僕にも大いに納得が行く。

 実はこの演奏を聴く前にもモノラル時代のバックハウスを絶賛する声と、インテンポな加速と短いカデンツァの採用は端折り、自己解釈が強すぎると強烈な賛否両輪があるのを知ってはいた。だけど僕の音楽を聴くスタイルは人の話ではなく一つ聴いたことのある演奏から縁を感じるごとに、つまり袖と袖がふれ合うことで範囲が広がってきたようなもの。ようは自己流だってわけでだ。ところが今回だけは人の褒める、あるいは賛否両論がある演奏は絶対聴いてみて損はないということを実感した。半世紀を経た写真で言えばまるでオールドライカレンズのようにゴーストやフレアがある写真のような録音、しかも iPhone iPod による再生、それでも最新の技術を駆使した録音を遙かに凌ぐほど心へ揺さぶりを掛けてくる。月並みな言葉になってしまうがステレオでしかピアノソナタを聴いたことがない人は是非聴いてみていただきたい。

♪BGM while writing