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A fulfilled life - Jean Michel Kaneko Photograhie

知足是福。音楽家・演奏会の写真がメインのカメラマン、公開OKの作品は掲載中。IT企業役員、趣味で料理の YouTuber、趣味は仕事と同様大切でロードバイクと料理とワインフリーク。

Beethoven : ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 (Alice Sara Ott)


Beethoven : Concerto pour piano n°3 ( Alice Sara Ott / Orchestre philharmonique de Radio France)
ピアノ アリス・サラ・オット
ミッコ・フランク指揮
ラジオフランスフィルハーモニー管弦楽団

先日聴いたアリス・サラ・オットのベートーベンピアノ協奏曲第1番ハ長調が思いの外良かったので、家にいるし面倒なことはやりたくない1日だったので同じくアリスのピアノ協奏曲第3番ハ短調を聴いてみました。母の手術の待機だと言っても別にやることはないのです。時代は想像をはるかに超えて便利になっています。

本題ではない余談ですが YouTube で高画質、高音質の新しい演奏を聞くのも容易になったし、古くからのいわゆる名演奏という演奏もかなり自在に聞くことができます。版権を持っている人が新時代ビジネス、YouTuber になって公式にアップして収入を得ているということでしょう。これは将来 Apple Music ですら叩き潰してしまうかもしれない素敵な現象かもしれません。権利がある人が正当に権利収入を得るというのはとても大切です。
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ピアノ協奏曲第3番はベートーベンにとっても特別な曲で音楽学者アルフレート・アインシュタインに依ればモーツァルトのピアノ協奏曲第24番ハ短調に感銘を受けたベートーベンが彼の曲の中でモーツアルトに『二、三の貢物を捧げている』という。アインシュタインの主張のようにこのPC3番はそのPC24番に触発された作品と考えて良いのでないかと思います。
とは言ってもベートーベンはモーツアルトの影響を受けたらからといって優雅にモーツアルト風の曲を書いているわけではなく、明らかに先人を否定し乗り越えようとする半ば暴力的な意思も見えてきます。PC1番の第1楽章中間部で遠隔調の変ホ長調を採用したりやや暴力的な自筆のカデンツァ、そして第3楽章の特有のティンパニの連打など明らかにモーツアルトを越えようとするロマン派の萌芽があります。

だからこのPC1番をモーツアルトの延長のように優雅に美しく 弾くピアノなど僕にはクソ喰らえ!なのだ。そんなの聞くならモーツアルト弾きのピアニストが弾くモーツアルトのPC を堪能すればいいと思うんです。ところが先日読響と共演したアリスのPC1番を聴いてびっくりしました。モーツアルト風の部分は優雅に酔うように弾きながら、ロマン派的な萌芽があるフレーズやカデンツァはオケや指揮者の表情を見つつ調和を計りながらもやや暴力的な非常に正確で芯のある音での演奏へのチャレンジが見えたのです。
そこで米倉涼子演ずる大門未知子のように「私、失敗しないから」とでも言いたげに、まったく大門未知子風にステージに登場するアリス・サラ・オットの自信に満ちたPC3番を見つけた時は思わずやったと思ったのでした。余談ですがスタイルも目力も雰囲気も大門未知子に似ていますね(^_−)−☆

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音楽好きに説明はいらないと思うけれど、ハイドン交響曲第78番ハ短調モーツアルトのPC24番とベートーベン以前のハ短調は18世紀後半以降の作曲家において独特の意味があり、それはチャールズ・ローゼンに依って「ドラマとパトス」の両立という意味があったと言われています。そしてそれは主題がユニゾンオクターヴでc-e♭と始まり、直後の小節が弱音で対比する様式はハイドンモーツァルトを経てベートーベンに引き継がれています。ベートーベンにとってハ短調は特別で第5交響曲、悲愴ソナタ、32の変奏曲、ヴァイオリンソナタ第7番、コリオラン序曲そして最後のピアノソナタ第32番作品111もハ短調ですね。

そしてこの3番は第1楽章の楽器編成が1番と同じ編成にもかかわらず、より重厚さと芯の太さを増して1、2番と一線を画しベートーベンワールドを展開しています。だからピアノも華麗で美しいだけでは物足りないのです。

ピアノの音域について言えば、作曲当時と1803年初演の楽器はモーツァルトの時代と同じで音域がせまく、膝でペダルを押し上げる仕組みのフォルテピアノでしたが楽譜出版の1804年に広い音域を誇るエラール社のピアノが出ると早速手に入れ、フォルテピアノでは弾けない高音域を書き加えました。ベートーベンの向上心、先人を克服する意思が伝わりますね。

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そして彼女のピアノも同様に進化しています。旋律の変形と上下は超絶技巧の正確さで演奏され、さらベートーベンワールドはPC1番以上に重厚かつ激しく流麗でダイナミックで暴力的に弾かれます。まさに音符に作曲者の命を吹き込むように。
第一楽章は協奏的ソナタ形式でc-e♭-g-f-e♭-d-cの主題を弦楽が静かに提示し、2つの主要な主題が展開、その後ピアニストが取り上げ、ピアニストとオーケストラの間で対話が確立される。その時の彼女のオケを愛でるような眼差しが素晴らしい。そしてこの章は最初の主題に触発されたピアノのカデンツァで終わります。
第二楽章 ピアノソロのハーモニーに富んだ緩い旋律がベートーベンらしい魂を揺さぶる重さも持つ。アリスのピアノはオケとの調和を計りながら見事にそれを表現しています。
第三楽章のロンドでは、オケとピアニストの活発な会話のラリーが展開され、オケ全員でドラマティックに高揚した後、ピアノソロが華麗に力強く超早弾きで主題を繋ぐパサージュが演奏されてからコーダで6/8拍子に転じ、テンポをあげながらハ長調で嬉々としてエンデイング。ここでも急速に上がっていくテンポのなかでの分散オクターブなどアリスの芯がしっかりした重厚的かつ暴力的な「超絶技巧」が「こういう表現でなくてはベートーベンになりません。私失敗しないので!」と強く主張しているようにも聞こえます。

これはスビャトスラフ・リヒテルクルト・ザンデルリンクウィーン交響楽団の演奏と並ぶんじゃないか?って勝手に思います。

アリス・サラ・オットがどういうピアニストかはググってください。いくらでも出てきます。なので僕は日本語ではほとんど書かれていない彼女の演奏のレビューを書いて見ました。
ちなみに彼女のピアノ協奏曲第1番 ハ長調はこちらです。

Beethoven Piano Concerto No1


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