三軒茶屋くらりす
三茶も年月を経て大人の店が出てきた
僕は外食がとっても好きだけどうるさい店は嫌だ。若い人が飲んで騒いでいるような店はどうも避けてしまう。それと今流行りの創作料理を掲げるチェーンの店。勿論チェーン店の努力は認めるがどう考えても味覚の経験の上に構築された創作という料理に殆ど出会えることは稀中の稀で、ただ奇をてらった脱線料理を創作だ!オリジナルだと言っているようにしか味わえない。そう言う店は宴会の時だけで良い。だから新しい店を開拓しようとしてもどうも保守的にならざるを得ないが、この店は嬉しい大誤算だった。ちなみにチェーン店ではないが・・・。店名のくらりすはご多分に漏れずルパンから取って来ているとのことだが僕を出迎えてくれたのはゆっくりくつろげる空間と基本に忠実な美味しい料理。そして煙草は吸うけれどもマナーを辨えた大人の客だった。
- まずはワインリストの品揃えがいい。なにも高級ワインだけがワインじゃない。いただいたのは作り手知らず(著名な人気生産者ではないという意味で)ではあるけれども 1996 のオートコート・ド・ニュイが¥3000強。ピノ・ノワールらしい良質なブルゴーニュだった。こういうワインを探してリストにのせるのも大変な努力が必要だと思う。
- 前菜にいただいたお魚のカルパッチョ。活け締めの歯ごたえと新鮮さで勝負か!計算されたサラダの葉の大きさと魚の歯ごたえが巧くマッチしている。
- 魚介のリゾットのオーブン焼きというネーミング。好感が持てるのはこうした料理をパエリアと名付けて売っていないことだ。リゾットのオーブン焼きと開き直った分だけリゾットの美味しさとオーブン焼きの香ばしさにシェフは堂々と集中出来るという寸法。基本に忠実とはこのような料理に対する姿勢をいうのだ。
- 青森産鴨のロースト。青森の鴨はフランスのマグレキャナールのように歯を当てるだけでススッと切れるほど柔らかくない。逆に適度に嚼み応えがあって噛むほどに旨味が口の中に広がるのが良い。フランスは鴨で松坂牛のようなことをやったが本来フランス料理の素材としての肉、例えばシャロレ牛などは適度な嚼み応えと旨味がありそれを真骨頂としている国だった。だから日本は鴨でお返しをしたというわけだ。
料理の話はこれくらいにしてこの店のアトモスフィアを語ろう。なんといっても圧巻は真空管アンプと JBL スタジオモニターによるオーディオ空間である。食後にはシェフであるマスターが快く店内の撮影を許可してくださり、更に自慢のオーディオセットで音楽を掛けてくださった。音像定位と押し出しの素晴らしさは JBL スタジオモニターの作り出す最高の魅力の一つだがさらにアナログオーディオの豊かで優しい音場に精神が高揚していく喜びを感じた。 JBL はジャズだけではない。かつて黒田恭一と菅野沖彦のカラヤン・ベルリンフィルについての対談でブラウンのスピーカーを推奨する菅野に対して黒田がどこまでも JBL にこだわり続けたことを思い出す。
それにしても smc PENTAX-FA 50mmF1.4 と K10Dの組み合わせ。カメラマンがヘボでもそこそこ絵になる写真にしてくれる。まさしく写真はレンズが撮るんですなぁ。