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LET IT BE

ビートルズさいこう!

D

 土曜は n. でビートルズの映画 LET IT BE をマスターと夜中まで見入ってしまった(*1)。最初から最後までじっくり見たのは数十年ぶりのこと。この映画はとてもギスギスしたムードのだだっ広いレコーディングスタジオのセットのなかのシーンから始まる。ビートルズは普段のリハもレコーディングもずっと深夜だったのにこの映画の撮影のためにみんな眠い目を擦りながら昼間にロンドン郊外のトゥイッケンハイム映画スタジオに集まっているからもの凄く不機嫌。映画の撮影スタッフの労働条件から撮影が昼間行われたからなのだけど、そもそもポール以外のメンバーはこの映画を作ること自体乗り気じゃなかったらしい。

 他のメンバーを押し切って半ば強引に決めてしまったポールは一人なんとか映画を完成させようとして最初はとても独裁的なシーンが目立つ。例えば Maxwell's Silver Hammer のリハを何十回とメンバーに要求しているし、I've Got A Feeling のギターについてジョージにグダグダ言ってとうとう口論になるシーンがある。ジョンばかりでなくジョージとも不仲説が流れるにいたりそれがビートルズ解散の風説を呼んだんだね。「ホワイト・アルバム」のレコーディングのころからメンバーだけだったレコーディング・スタジオに好きに出入りしていたヨーコがジョンのそばに隠れるようにピッタリと寄り添って、ポールの冷たい視線に怯えて避けるような黒い瞳がとても印象的だ。

 それでも泣かせるシーンはいくつかある。ベサメムーチョを歌いながら先導して皆をまとめギスギスした雰囲気を和らげようとするポールや、ワンマイクでジョンとポールが絶叫する Two Of Us のシーンは涙がチョチョぎれる! それから I Me Mine をバックにジョンとヨーコがワルツを踊るシーンももの凄く素敵だ。そして名曲 Let It be や The Long And Winding Road がこんな雰囲気の仲で生まれたという事実はポールの天才ぶり示すけれども世界中の一流ミュージシャンがカバーしているこの二つの曲はやはり誰一人としてポールに勝るものはないということを改めて実感した。

 ギスギスした雰囲気は収録場所をアップルレコードの地下スタジオに移すと様子は一変する。ハンブルク時代からの仲間、ユーモアとテクニックあふれる黒人ピアニスト・ビリー=プレストンがレコーディング・セッションに参加するんだね。急に彼らみんが和気あいあいとセッションが進行するようになる。そしてハイライトシーンの屋上へ。Get Back や Don't Let Me Down など大音量で演奏され結局警察の介入で終わってしまうけれども、この彼らの姿はデビュー当時の協調と統一感がぐっとスケールアップしたバンドとしての圧倒的な存在感を押し出す。それはカラヤンヴェルディ・レクイエムに全くと言って良いほどひけを取らないばかりか互角勝負の最高のクライマックスだ!

 音楽は言語にとても似ているところがあるけれどまったく違うところもある。異文化に移植されてもいとも容易に人の感情を呼び覚ます。これは言語には不可能なことだ。この事実は高等な哺乳類としてのホモサピエンスが言語と論理で人間性を勝ち取り音楽はあくまで従属的であるとする従来の言語学文化人類学に疑問を呈し、音楽は言語と共に互いに誘発しあいながらホモサピエンスの進化に決定的な役割を果たしたと考えることが出来るというスティーヴンミズンの仮説にこの映画を見て大きく頷く。

 ミズンによれば赤ん坊がリズムやメロディーに合わせたり笑ったりするのは有史以前にすでに音楽がボクラのDNAに刻み込まれているのだという。楽器を演奏することが出来ない僕のような音楽的には普通の人々でも音楽を聴いて心を振るわせることは出来る。ミズンは音楽を聴いて心を振るわせることが出来る能力を音楽を創り演奏する能力と対等な音楽の能力と定義づけている。むしろ楽器を演奏したり音楽を創ることが特殊な能力になってしまった要因を有史以降のかつ近代西洋の教育体系から音楽を軽視して疎外してしまったからではないかと推測しているがこれは近代化の範を欧州に求めた日本もまったく同じでことであろう。

 そしてその音楽の能力は教育で開発されるものではなく既にDNAに刻まれていて音楽と触れて爆発するのを待っているのだと。僕たちはまずビートルズのメロディーとリズムに心を揺さぶられて熱狂した。歌詞を理解し受け入れたのはその後のことだった。ビートルズに魂を揺さぶられながらミズンの仮説を支持したいと思う。

Let It Be... Naked [Bonus Disc]

Let It Be... Naked [Bonus Disc]

*1:映画・ビートルズの LET IT BE は最近 n. でよくかけている。この映画のインプレッションをミクシに書いたら音楽プロデューサーのS氏に褒められたのでいい気になって、事実関係を調べて校正し一応世間に公開するテキストとして体裁をつけてこちらに公開した。参考サイト→Things I Said Today http://www.tamano.or.jp/usr/osaka/pages/beatles.htm