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A fulfilled life - Jean Michel Kaneko Photograhie

知足是福。音楽家・演奏会の写真がメインのカメラマン、公開OKの作品は掲載中。IT企業役員、趣味で料理の YouTuber、趣味は仕事と同様大切でロードバイクと料理とワインフリーク。

Strokin’ Richard Tee

3枚目のリチャード・ティー『ストローキン』

 音楽とは経験的世界を旋律とリズムで構成された音で記号化されたものをミュージシャンとオーディエンスが共有することでコミュニケーションが成立する芸術表現だからある意味ひじょうに嗜好的なものである。オーディエンスの経験的世界が未熟でもミュージシャンの経験的世界がゆたかであるならばオーディエンスにそのミュージシャンと方向を一にする経験的世界の素地さえあればその素地をオーディエンスの側が意識していようと無かろうとミュージシャンの表現によって引っ張られ、あるいは誘発される形でコミュニケーションが成立しオーディエンスの側に一挙に爆発的に共感が生まれる。それが直接的に経験される場所 --- それは単なるXY方向でのみ示される場所ではなく時間軸に統合された経験的ステージとも呼び得る場所であるが --- がライヴに他ならない。

 そういう理屈を振りかざしたのは他でもない、僕が友人に連れられてNYのミケールズを始めて訪れたとき前述の理屈がまのあたりに、ありのままに体験されたからである。そこには奇をてらった大がかりなセットもお金のかかった照明装置もなかった。あるのは比類無く美しいメロディーと完璧なリズム、それを作り出すミュージシャン達のある時は真剣なある時は楽しそうな素敵な顔、顔、顔だった。その時には既にティーの左手とガットのドラムの信頼に満ちたコンビネーションは完成されていたように思う。そのミュージシャン達こそゴードン・エドワーズ率いるエリック・ゲイル、コーネル・デュプリーのトゥーギター、ステーヴ・ガッドとクリス・パーカーのトゥードラムス、そしてアコピとローズを引き分けるリチャード・ティーで構成される Sutff だったのだ。客達は想い思いに心のリズムを合わせて好きなドリンクを手にしながらソウルフッドを突いて時には談笑し時には真剣に聞き入ってそれぞれの素敵な時間を過ごしていた。僕は何の違和感もなくその世界に入り込んで行くことが出来たことを今でも鮮明に記憶している。

 店のスタッフも完全に Stuff の世界にいて彼らの足音やグラスとシルバーの触れ合う音ですらパーカッションに昇華しきっていたように思う。彼らにはそのミケールズで録音された「In NewYork asin:B0009HLC9M」という素晴らしいアルバムがあるが今日紹介するのは1978 年録音、ボブ・ジェイムスのプロデュースによる、リチャード・ティーのファースト・リーダー・アルバム『ストローキン』である。ガットとの完璧なコンビネーションは随所に現れるが特に圧巻は7曲目の「A列車で行こう - Take the "A" Train」だろう。 日本に帰国後 JBL L36 に繋いだサンスイAU-8500のスイッチを入れ静かにシェアV15タイプ lll を回転するレコード盤に降ろしたとき、僕の経験的世界はスルスルとミケールズにシフトしていったのである。一曲目の「First Love」が恐らくエリック・ゲイルの腹式呼吸のあとの滑り出すようなギターではじまってティーのソロが絡み出したとき身体がゾクゾクしてきたのを覚えている。それは一度、決して旨い歌ではないのだが慈愛に満ちた優しく温かいティーのヴォーカル「Every Day」で心の平穏を取り戻した後、ふたたび「Strokin'」で蘇り興奮は最高潮に達する。そして「Take the "A" Train」でティーとガットの織りなす世界に完璧に引き込まれノックアウト寸前だった。

 1995年にティーが僅か50代で他界したときに僕はこのレコードの2枚目を買った。『リチャート・ティー逝く』 のニュース。その衝撃は僕にとってジョン・レノンの銃殺よりも重大事件だった。家に帰ると何度も何度も聞き返した。そして気持ちが落ち着いたところでこのレコードを聴くことを封印してしまった。先週 Intel iMac が到着して iTunes のパフォーマンスを試してみようと Amazon で CD を何枚か物色していたときにこの『Strokin'』の輸入盤を見つけた。通算3枚目の『ストローキン』である。封を切るのももどかしくディスクを iMac に挿入する。画像処理で PowerPC G5 2.7GHz より遥かに優れたパフォーマンスを見せた Intel Core Duo 2.8GHz は『ストローキン』のリッピングでは G5 の CD リッピングにくらべて明らかに遅かった。それはほんとは単なる CPU の特性の差に過ぎないのだと思う。しかし僕には iMac がティーを懐かしむようにゆっくりリッピングしているように思えてならなかった。ティーの他界からもう10年を悠に過ぎた。iMac に繋がる JBL から流れてきたサウンドは懐かしく美しく楽しい。再びいま僕の心はミケールズにいる。ありがとう、リチャード・ティー、合掌。

Strokin'

Strokin'

Live in New York/More Stuff

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  • アーティスト: Stuff
  • 出版社/メーカー: Collectables
  • 発売日: 2005/06/28
  • メディア: CD


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