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水都 サンジョルジョ・マジョーレ

日本画家野村義照さんのこと

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水都 サンジョルジョ・ディ・マジョー

 日本画家の野村義照さんに「水都 サンジョルジョ・マジョーレ」という連作がある。構図としてはサン・マルコ船着場上空からサンジョルジョ・マジョーレ教会の全体像を見据えたようなフレームだが絵画としてはヴェネチアをイメージして群青とグレーで描かれた幻想都市のイメージである。野村さんとは15年くらい前に意気投合して良くワインを飲んだ。ちょうど僕と飲み出した頃が野村さんにある種の転機が訪れたようで(僕との出会いは殆ど関係が無いと言って良いが)その作品のトーンに変化が始まったように思う。東山魁夷のような美しい群青中心の描写から徐々にグレーが占める割合が増えていった。

 写真的な言い方をすれば彩度を落としてコントラストが上がっていったのである。花やポートレートなどにはその傾向が顕著に見られたが一連の大作「水都 サンジョルジョ・マジョーレ」シリーズもよく見れば群青の美しいトーンに隠れながらも作品のストラクチャーは力強いグレーに支えられていることに気づいた。先日ガラスの森の美術館を訪れてその風景を見たとき僕の脳裏には野村さんの作品が蘇った。ヴェネチアをイメージしたアトモスフィアのどこかがヴェネチアほどカラッとクリアな色彩ではない、グレーのストラクチャーを持つ箱根の、否、日本の空気を感じずにはいられなかった。

 東山魁夷の美しい絵画的(絵画なのだから当たり前か)世界が美術論壇からは国籍不明と批判されたのは僕が野村さんと出会う恐らく20年以上も前の「白馬の森」シリーズが一世を風靡した頃のことだが東山魁夷が欧州にあって常に旅人でありエトランゼであったのに対して野村さんは欧州の人になりきっていたのではなかったか。野村さんのパリのアトリエのハウスワインはドゥロン・リカールのクロ・ド・マルキだったと思う。このいつでも同じ美味しさを味わえるトースト香ゆたかな、そしてほのかに刻み煙草の香る比較的お買い得のワインをしっかり煙草を吸いながら飲むことを前提に選択する別に取り立ててワイン愛好家でない日本人を僕は野村さんしか知らない。

 野村さんの作品のグレーは野村さんの日本人画家としてのアイデンティテーではあるまいか。そしてそれは大先輩である東山魁夷への批判であるばかりでなく師である平山郁夫への批判であるように僕には思えた。平山が理解しようがしまいが野村さんは平山に前田青邨への回帰を迫ったのではなかろうかと。箱根のヴェネチアを目の当たりにしてそんな話をワインを飲みながら野村さんとよくしたことを思い出した。故人である東山魁夷はともかくとして野村さんがどう考えていたかなんてインターネットで書けるわけがないが(笑)彼がグレーこそ最高に美しいと言っていったことは書いておこう。

 箱根の写真を整理しながらなんの特徴もないガラスの森のありきたりの風景写真をフォトショップで遊んでみた。勿論野村さんの作品に対抗しようなどと大それた気持ちはさらさらない。単なる遊びである。アイディアは野村さんの「水都 サンジョルジョ・マジョーレ」。名付けて「水都 サンジョルジョ・ディ・マジョーレ」である。di という所有格が入ることによってタイトルの品位はぐっと落ちる(笑)。実際画家の仕事は僕らが考えるほど「好きなことをしてよいなぁ」なんてお気楽なものではなく忍耐と精神集中を極度に要求される炭坑夫のような仕事なのだと僕は思う。

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